
左手のピアニスト 舘野 泉さん
先日、「左手のピアニスト」でご高名な舘野 泉さんの演奏を間近で拝見する機会に恵まれました。ご病気で右半身がご不自由でいらっしゃるけど左手だけでたくさんの人を魅了してこられた、御年84才です。ご著書は読んでいたけれど、実際の演奏は初めて、ピアノは「スタインウェイ アンド サンズ」スポットライトの下ピアノの漆黒がキラキラとしていて、開演前からテンションが上がりました。
すでにバッハの時代から左手の曲があったそうで、荘厳なバッハから、アンコールの「赤とんぼ」まであっという間の夢のような時間でした。もちろんほとんどの曲は両手用に作曲されていますから、なじみのある曲ばかりではなかったけど、澄み切って、ペダルを駆使した力強い演奏ですぐにその世界に魅きこまれました。
私が演奏と同じくらい心動かされたのは、終演後、観客に向けてくださった実に柔らかな優しい笑顔でした。終演後3回も舞台にお顔を見せてくださいました。
そこには、生きる喜び、ピアノを弾く喜び、ピアノの音がある喜び、観客が贈る拍手への喜び、
観客からのエネルギーに応える喜び……あんなに美しい優しい笑顔は見たことがありません。
今まで生きてこられたことから来る余裕、苦難を通り抜けられたことから来る余裕、そしてその日も渾身の演奏をなしとげられた余裕…それらがすべて表現された「ほほえみ」でした。
ご著書によると年齢を重ねても、病を得ても、ただひたすらピアノに向かっておられたそうです。
すべてのことを受け入れ、歩いて行ったら、あんなふんわりした余裕を身にまとうことができるのかな?あんな美しい優しい笑顔を得られるのかな?
たとえあんな素晴らしい演奏家でなくても、毎日するべきことをしてまっすぐに生きていったら、年を重ねて体力が衰えても、余裕をまとった笑顔をつくれるようになるのかな?
あそこまではとてもとても行けないけどマネでいいからできるようになったらいいなあ…
とても柔らかな美しい余韻をいただけたリサイタルでした。
どうもありがとうございましたと心から申し上げたいです