エミリー・ディキンソン あのような方々…
That Such have died enable Us
The tranquiller to die---
That Such have lived
Certificate for immortality.
あのような方々でも亡くなったと言うことは
わたくしたちの死をいっそう安らかなものにしてくれる――
あのような方々が生きたと言うことは、
「生」が永遠であることを証明してくれる
エミリー・ディキンソンの詩です。
エミリーは19世紀、ちょうど南北戦争の頃、アメリカ・ニューイングランド地方に生まれ、嫁ぐことのないまま、ずっと生家で静かに暮らし、55才病気でこの世を去りました。
生前、詩集の出版等に努力しましたが、当時世に出た詩はほんのわずか。しかしこの世を去ったあと、友人、家族によってたくさんの詩作が発見され、まとめられ、今では「アメリカを代表する」と言う形容がつけられています。この世を去ってからの出版なので、よく真意のわからないところも多い、生前の生活も謎の多い詩人とも言われています。18才頃の写真がありますが、知性と真摯さが表情にあふれでている、清楚でとてもきれいな人です。
当時、エミリーの地元では、キリスト教が盛んで家族も信徒、しかし、エミリーは疑問を感じて受け入れようとしませんでした。「死ぬこと」は世界中の様々な宗教でそれぞれに表現されているので、どれが良いか良くないかは問題ではありません。ただあまりに形式的になってしまっていることにエミリーは疑問を持ち、それがこのような短い詩となったと言われています。
宗教色が薄いだけに、とてもわかりやすい詩です。私が身を置く医学の世界にはまるで「死は敗北」かのような錯覚が存在しています。しかし古代エジプト、古代中国、古代ローマ…から現代の英雄に至るまで、どのような偉業を成し遂げた人でも、いくつになっても死なない人など誰ひとりいません。「死は敗北」これは完全な錯覚です。エミリーは先立った偉大な人々を想い、それなら死も安らかであるはずと考えました。
同時に、その人々の記憶が不滅なことで死んでも永遠であると唱えました。このたった4行の詩で生きることへの真剣さが伝わってきます。
私の、皆さまの回りの、この世を去った方々、ネコちゃん、ワンちゃん…に至るまで、
想いを馳せると、この世を去るのもおだやかなものに感じ、その方々が生きていたことを想うと生は永遠と思える、身近なところで考えるとこの詩にはとても救われます。
ちなみにエミリーの言う「あのような方々」とはブロンテやブラウニング等当時の先輩女性作家だと言われています。