貴重な経験でした
皆さまおかわりなくおすごしでしょうか?
このところの雨や暑さで何かお困りのことや被害を受けた地域の患者様はいらっしゃいませんでした?
紫外線のことはもう良くご存じと思いますが、気温だけはどうしようもなく、工夫するしかないですね……暑い。
私事ですが、ここ半年ほど、自分の休診日を使い、大学同級生の病院で皮膚科のお手伝いをさせていただいておりました。
ご高齢の入院患者様が対象です。ご高齢者様と皮膚科?今、当院へご来院いただいている皆さまには腑に落ちないかもしれませんが関係は大いにあります。
その中心は「床ずれ」です。あと一般皮膚病はもちろん伝染しやすい皮膚病、爪、乾燥からくる疾患……お若い方々よりもむしろ皮膚疾患は多いと感じます。
「床ずれ」ご存じですか?
ご来院の皆さまのように、お体のご自由がきく方々は、寝ておられる間も無意識に「寝返り」をされます。寝返りによって体の疲れを軽減したり体温調節したり色々効果があります。
これに対し、ご入院中のお体のご自由が利かない方々はとずっと同じ姿勢になってしまいます。すると体重のかかる部分の血行が低下し皮膚が崩壊して、進行すると穴があいてしまいます。これが「床ずれ」、とても痛そうでお気の毒です。今ではハイテクのおかげで自動的な寝返りをさせてくれる装置とかありますが、それでもまず器具によっては「電気」が必要ですし、ナースさん(人間)の細やかなケアにはとても及びません。だからと言って、お忙しい極みの病棟勤務のナースさんには時間的余裕はなく、これ以上のことを求める訳にはいきません。成増での活動時、床ずれの往診は多かったのですが最近はご無沙汰、やはりご高齢者様にはそのケアがすぐにでも必要だと思いました。
その病院で、折を見て薬品を使い、床ずれが少しでも良くなるように処置、また初期から手当てができるようにスタッフさんに案内、わずかながらですがお手伝いさせていただいた次第です。能登の地震後も床ずれでのご苦労が多かったとうかがっています。これには取れる手段が少ないので、訪問看護師さんたちがたいへん心を痛めておられたそうです。
毎日お世話をなさる方々の姿勢には本当に頭が下がり、ただ尊敬のひとことです。皆さまお優しい。このことは病院内だけでなくお家でお世話されている方々も同じです。ましてお家では試行錯誤されながらの介護ですし、痛みや症状が軽いものか重篤なものか見た目だけではわかりませんから、日々ご心配との共存です。尊敬ももちろんいっそう大きく、小さなことでもお力になって、応援したいと日々思っています。
さて、ご高齢者様方と共にいると、ただのおしゃべりがとんでもなく興味深いのです。高度成長期の日本、上皇陛下ご成婚、バブル景気の頃、初めての東京オリンピック、数々の自然災害、そして太平洋戦争……たとえ認知症と診断されていても、遠い過去の記憶がしっかりしておられる方々は多いようです。戦争のとき防空壕に入った、食べるものがなくて草まで食べた、台風の時水が天井まで来た、有名政治家の部下として働いた、ご親族を亡くされた……今の日本では想像もできない過酷な時間を切り抜けてこられた方々の大切なお話です。とても良い時間でした。ただ皮膚を健康にする、との思いだけで出かけましたが、治療はもちろん、そこに加えてそれはそれは貴重な経験をたくさんさせていただきました。
心から感謝です。